はし)” の例文
そしてその小娘もまた此方こなたの人影をいぶかるものの如く、死骸と死骸との間から、はしこい猫のようなひとみを、じっと、射向けているのであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしりいく窓の外では、虫の声々、雨とながれる。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
頭領かしらも、知らないに違いない。こいつはまた、一杯飲める」松林を駈けぬけると、近衛坂このえざかの崖へつかまって、むささびのようにはしこく登って行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実は、からかって、雉子きじのようなはしこい足で、先に山道を降りかけたが、急に顔いろを変えて、立ちすくんだ。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしっこい日吉は、すぐ土間口のほうへ駈けて行った。土間は広く、一方は炉部屋の上がりがまち、一方は台所だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の目をみはらせるようなはしこい動作を見せたりするので、武蔵は、にわかに、同情をもてなかったが、にかわで着けたような睫毛まつげから、ぽろぽろと涙をこぼすのを見ると
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先へ走ってゆく影も、これまた、おそろしくはしっこい。ちらと、近くで見たところでは、それは、河原や枯れ野などによく寝ている物乞いか、菰僧こもそうたぐいであるらしかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「多分、われは、はしこくて小粒だから、大風の晩に、火でもける役の方に置いてあるのだろう」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、旗本たちへ呼びかけながら、ふたたびむらがる敵の中を割って、味方の内へはしり去った。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……はしこい奴」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)