軽便けいべん)” の例文
旧字:輕便
中味を棄てて輪廓だけをたたみ込むのは、天保銭てんぽうせんを脊負う代りに紙幣をふところにすると同じく小さな人間として軽便けいべんだからである。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中川君、お登和さんのお料理も随分結構だがあんまり手数のかかるものが多くってちょいと試しにくい。手数が少しもかからんで軽便けいべん美味おいしいものを
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
政府の鉄道は勿論もちろん私設の軽便けいべん鉄道や、当時は乗合自動車さえ通っていず、殊に島に面した海岸は、百戸にたぬ貧弱な漁村がチラホラ点在しているばかりで
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山崎洋服店の裁縫師でもなく、天賞堂てんしょうどうの店員でもないわれわれが、銀座界隈の鳥瞰図ちょうかんずたのしもうとすれば、この天下堂の梯子段はしごだんあがるのが一番軽便けいべんな手段である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
温泉地からそれらの町へは、いずれも直通の道路があって、毎日定期の乗合馬車のりあいばしゃが往復していた。特にその繁華なU町へは、小さな軽便けいべん鉄道が布設されていた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
余の研究室では、送信真空管乃至はオッシログラフ用ブラウン管ぐらいの、極めて軽便けいべんなる大きさの新サイクロトロン——名付けてテイクロトロンというものを作ることに成功した。
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小田原に着くとすぐ熱海行軽便けいべん鉄道に乗ったので、軽便鉄道はその形が至って古めかしく、まるでステファンソンがはじめて作った機関車のようだったが、今は立派な電気機関車が走っています。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
イザ食べようという時小口こぐちからく薄く切って芥子からしを添えるのだ。一つ試してみ給え、一番軽便けいべんの豚料理だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それ以来、明石君のお家では、この針の穴の軽便けいべん眼鏡に「一太郎の眼鏡」という名がつけられました。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その中へ軽便けいべんにすれば玉子の湯煮ゆでたのを少さく切って白ソースでえたものを詰めてもよし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)