赤錆あかさ)” の例文
赤錆あかさびたような白髪の、そして同色の顎髯あごひげを伸ばした、常時みずばなを垂らしている老人を伴れて来て、自分の家に泊めて
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
門には赤錆あかさびた鉄板のとびらが、さも厳重に閉まって、のぞいてみるような隙間すきまもなく、広い邸内はヒッソリと静まり返って、人のけはいもなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
赤錆あかさびたトタン張りの小舎こやが点在して色のさめた洗濯物やボロ蒲団ぶとんなど乾してあるのが哀れに目立つ戦災風景だつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
赤錆あかさびてゆがんだ石油タンクや、打ちこわされた軍事施設が、ところどころに残骸ざんがいをさらしていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
恰度ちょうど、雨が降りしきっていましたが、向うから赤錆あかさびたトタンの切れっぱしを頭にかぶり、ぼろぼろの着物をまとった乞食こじきらしい男が、雨傘あまがさのかわりにかざしているトタンの切れから
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
小さなその工房は赤錆あかさびの金具で埋まったままで足の入れ場もない。店の左手にはかみさんのあきないなのか、わずかの柿を台に広げて売っている。金具造りだけではもう暮せないと見える。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人間のよりは平べったい髑髏どくろが、三つも四つも、眼のくぼにほこりをめてころがっているかと思うと、その下の段には、外科医の使うような、無気味な銀色の道具箱が、半ば赤錆あかさびになって
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)