あきらめ)” の例文
沢次と他の男とが寄添いながら柳橋を渡って行く後姿を月の夜に見送ってもういけないとあきらめをつけた時の事を思出した。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さりとてはあきらめも得ず、またのどの悟りをも見ね、ただすこしおのれ知るからただ堪へてへりくだるのみ。ややややにかくてあるまで。寂しがり寂しがるなる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
誠の親馬鹿といふので有らうが平癒なほらぬほどならば死ねとまでもあきらめがつきかねる物で、余り昨今忌はしい事を言はれると死期しごが近よつたかと取越し苦労をやつてな
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ解決が出来れば幾分かあきらめが付き易い効はあるが、元来「死」が可厭いやという理由があるんじゃ無いから——ただ可厭いやだから可厭いやなんだ——意味が解った所で、矢張やっぱり何時迄も可厭いやなんだ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これはただ神妙に自己を没却したあきらめていたらくから生じた結果ではない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京を立った昨夜ゆうべの九時から、こうあきらめはつけてはいるが、さて歩き出して見ると、歩きながら気が気でない。足も重い、松がきるほど行列している。しかし足よりも松よりも腹の中が一番苦しい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)