蝴蝶こちょう)” の例文
その虫がすでに宮中に入ると、西方から献上した蝴蝶こちょう蟷螂とうろう油利撻ゆりたつ青糸額せいしがくなどいう有名な促織とそれぞれ闘わしたが、その右に出る者がなかった。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ふと花壇のほとりを見やると、白い蝴蝶こちょうがすがれた花壇に咲いた最初の花を探しあてたところである。そしてその蝴蝶も今年になって初めて見た蝴蝶である。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
観客はその夢幻郷の蝴蝶こちょうになって観客席の空間を飛翔ひしょうしてどことも知らぬ街路の上に浮かび出るのである。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これや北風ほくふうに一輪つよきを誇る梅花にあらず、またかすみの春に蝴蝶こちょうと化けて飛ぶ桜の花にもあらで、夏の夕やみにほのかににおう月見草、と品定めもしつべき婦人。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夢の蝴蝶こちょうのおもしろい想像が、奇抜な哲学を裏づけたごとく、嵐も雲もない昼の日影の中に坐して、何をしようかと思うような寂寞せきばくが、いつとなくいわゆる春愁の詩となった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
麦畑は四方の白雪皚々がいがいたる雪峰の間に青々と快き光を放ち、その間には光沢ある薄桃色の蕎麦の花が今を盛りと咲き競う、彼方此方かなたこなた蝴蝶こちょうの数々が翩々へんぺんとして花に戯れ空に舞い
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
美妙は特にその作「蝴蝶こちょう」のための挿画さしえを註文し、普通の画をだも評論雑誌に挿入そうにゅうするは異例であるのを、りに択ってその頃まだ看慣みなれない女の裸体画を註文して容易にれしめたのは
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「山田美妙斎びみょうさいの『蝴蝶こちょう』のようだわ。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
荘子そうじの夢のわれ蝴蝶こちょうかを、差別しえない境遇にあった結果ではないかを考えしめる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)