薗八節そのはちぶし)” の例文
小首をひねる耳へ、嘲るように唄は続いた。よく聞けば箱根から先には珍しい薗八節そのはちぶしである、何ともいえぬ渋い節回し
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お才の名は、それからまもなく、桐佐きりさのたそや行燈あんどんから隠れて、なかの馴染みな人を相手に、薗八節そのはちぶしの女師匠と変った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取り万事はなはだものうく去年彩牋堂竣成しゅんせい祝宴の折御話有之候薗八節そのはちぶし新曲の文章も今以てそのまゝ筆つくることあたはず折角の御厚意無にいたし候不才の罪御詫おわび致方いたしかた無御座ござなく候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
塀の中から、お綱であろう、周馬を待つ間の退屈しのぎに、探し出した三味線の糸をなおして、薗八節そのはちぶし隆達りゅうたつか、こッそりと爪で気まぐれな水調子みずちょうしらしている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いはんやほかの芸事とはちがひ心中物しんじゅうものばかりの薗八節そのはちぶしけいこ致させほれねばならぬ殿ぶりに宵の口説くぜつをあしたまで持越し髪のつやぬけてなど申すところはとりわけじょうをもたせて語るやう日頃註文ちゅうもん致を
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
遊びたい気があれば勉学の心も失せないわけである。述作の興味もくわけである。一夜ある人の薗八節そのはちぶしを語るを聞きわたしもその古調をあじわい学びたいと思立おもいたって薬研堀やげんぼりの師匠の家にかよっていた事がある。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)