薄原すすきはら)” の例文
「近江のクタワタのカヤ野に鹿が澤山おります。その立つている足は薄原すすきはらのようであり、頂いている角は枯松かれまつのようでございます」
やや光の増しきたれる半輪の月を背に、黒き姿してたきぎをば小脇にかかえ、がけよりぬッくと出でて、薄原すすきはらあらわれしは、まためぐりあいたるよ、かの山番の爺なりき。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京の空襲で一家爆死した阪井有高さかいありたかの別荘に、祖父江そふえという見るからに沈鬱な青年と二人で住んでいて、ゴルフ場のそばの落葉松からまつの林や愛宕山の下の薄原すすきはらの道を散歩するのを日課にし
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
六番の右は薄原すすきはらに侍が一人馬の口を取つていて居る処である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
坂を上って、アノ薄原すすきはらくぐるのに、見得もなく引提ひっさげていた、——重箱の——その紫包を白い手で、うすものの袖へ抱え直して、片手を半開きの扉へかける、と厳重に出来たの、何の。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見遣る彼方かなた薄原すすきはらより丈高き人物あらわれたり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)