蓆旗むしろばた)” の例文
腐るものに、腐らぬ作用をしていたのじゃ。——それが、元禄となっては、人間が犬より下におかれても、蓆旗むしろばた一つ振るやつもない。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田沼先生という方はそういう方なんだ。蓆旗むしろばたを押したてて青年をけしかけるような運動は、血をもって血を洗うにすぎない、というのが先生の信念でね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
土民らはまた蜂起ほうきして反対党の先鋒となり、竹槍たけやり蓆旗むしろばたを立てて襲って来たので、彼の同志数十人はそのためにたおれ、あるものは松平周防守まつだいらすおうのかみの兵に捕えられ
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一つは鳥取県のある山村だけでいたことだが、蓆旗むしろばたといって五月の節供せっくのまえの晩、子どもが欲しいのに産まれないという家の前に、若者連中わかものれんじゅうがこっそりとやってきて
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは、地上では盛んに焚火たきびをして、上には高張提灯を掲げ、何十人もの村民が、竹槍、蓆旗むしろばたの勢いで、そこに群がり、しきりに言いののしって、この番所をにらみ合っているのを見ます。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中心はやはり河内村の安藤弥次右衛門で、近郷十五カ村六百人あまりの人たちが党を組み、鷹ノ巣山に籠って蓆旗むしろばたをあげ、竹槍、山刀、猟銃などを手に、今にも城下へ攻寄せる気勢を示した。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けっして神さまは打ちてて置かれなかったことは、まえに紹介しておいた蓆旗むしろばたの繩を、氏神社うじがみしゃから子の欲しい家へ、引いてきているのを見てもわかり、または逆歯さかばの生えた幼児のために
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)