ぼん)” の例文
またたきを失っているぼんやりした時と、あるいは野うさぎのように物かげにかくれようとしている時の、そのかがやきを交叉していた。
青木さんは所在なさにぼんやりと何をか考へ入つてゐられた後のやうな沈んだ顔をして、横になつて煙草をんでゐられた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「もしこの状態が長くつづいたら、私はあすの朝まで、せっかくのヴァイオリンも弾かずに、ぼんやり一枚岩の上に坐ってたかも知れないです……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
名物と言はれたしげりに繁つた松にブラ下がつた人間は、木戸の外からぼんやり見た位では見付からないよ
その証拠には見舞客がどういう服装であったかも不明で、只、顔ばかりがぼんやりと客の椅子の上に見えるばかりであった。
それには一寸込入つた事情があつて、息子の顔も立ててやらなければならないので、たうと今度は立つて行くのだと、かう言つたやうな事をぼんやり話した。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「ええ、ですけれども、あとから考えると、もしあらわれて退学にでもなると大変だと思って、非常に心配して二三日にさんちは寝られないんで、何だかぼんやりしてしまいました」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生んでみたいわね、あたいなら生んだっていいでしょう、ただ、どうしたら生めるか、教えていただかなくちゃ、ぼんやりしていては生めないわ。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ぼんやりと一つところを見つめてゐられるやうなことがあつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ぼんやりとおなじ水の面を眺めている夫は何を考えているのか、少しも生気というものがなく顔は青みをふくんでさびしい以上の淋しい感銘であった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)