茅葺屋根かやぶきやね)” の例文
見れば畑の隅に一軒の茅葺屋根かやぶきやねが見える。この六条の里がまだ開けないうちからあったような純然たる百姓家だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠見の北廓を書割にして、茅葺屋根かやぶきやねの農家がまだ四五軒も残っていて、いずれも同じ枯竹垣を結びめぐらし、その間には、用水堀やせきの跡などもあろうと云った情景。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その当時には、まだその土手下のあたりには茅葺屋根かやぶきやねの家がところどころ残っていたが、或る日、花火がその屋根の一つに落ちて、それがもとで火事になったのである。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
下にはまずまばらに茅葺屋根かやぶきやね、大根の青い畑が連って、その下に温泉場、二階三階、大湯から出る湯の煙、上を仰ぐと、同じはたけ斜坂さか爪先つまさき上がりになっている間に一条ひとすじの路がうねうねと通って
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
小広い平地があって、竹林ちくりんのしげったすみに、一けん茅葺屋根かやぶきやねがみえ、裏手うらてをながるる水勢のしぶきのうちに、ゴットン、ゴットン……水車みずぐるま悠長ゆうちょう諧調かいちょうがきこえる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年、赤穂から帰りに、吉良家の知行所である三河の幡豆郷はずのごうへ立ち寄って、一学の生れた茅葺屋根かやぶきやねの家で、老母の手で田舎蕎麦そばを馳走され、一晩泊って語り明かした——あれ以来であったかとおもう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)