花菖蒲はなしょうぶ)” の例文
夢の間に軒の花菖蒲はなしょうぶも枯れ、その年の八せんとなれば甲子きのえねまでも降続けて、川の水も赤く濁り、台所の雨も寂しく、味噌もびました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先刻玄関先に二にんびきをおりし山木は、早湯に入りて、早咲きの花菖蒲はなしょうぶけられし床を後ろに、ふうわりとした座ぶとんにあぐらをかきて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
花菖蒲はなしょうぶ及び蝿取撫子はえとりなでしこ、これは二、三日前、家の者が堀切ほりきりへ往て取つて帰つたもので、今は床の間の花活はないけに活けられて居る。花活は秀真ほつまたのである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かわについてどんどんきましたら、花菖蒲はなしょうぶにわいちめんにかせたちいさいいえがありました。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
四角い爪をいじりながら西向きのお庭の泉水せんすいに咲いているお父様の御自慢の花菖蒲はなしょうぶをボンヤリ見ておりましたが、今までカンカン照っていたお日様に雲がかかったかしてフッと暗くなりました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なお金森かなもりに充分の枝葉しようを茂らせ、國綱に一層のとぎを掛け、一節切に露取つゆとりをさえ添え、是に加うるに俳優澤村曙山さわむらしょざんが逸事をもってし、題して花菖蒲はなしょうぶ沢の紫と号せしに、この紫やあけより先の世の評判を奪い