芥火あくたび)” の例文
その何人とも知れない白癩びゃくらいどものおもてが、新に燃え上った芥火あくたびの光を浴びて、星月夜ほしづくよも見えないほど、前後左右からうなじをのばした気味悪さは、到底この世のものとは思われません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
香の煙のたちこめた大寺だいじの内陣で、金泥きんでい緑青ろくしょうところはだらな、孔雀明王くじゃくみょおうの画像を前に、常燈明じょうとうみょうの光をたのむ参籠さんろうの人々か、さもなくば、四条五条の橋の下で、短夜を芥火あくたびの影にぬすむ
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし一人海女あまだけは崖の下にいた芥火あくたびの前に笑って眺めているばかりだった。
折からあの焚き捨てた芥火あくたびが、まだ焔の舌を吐いているそのかすかな光に透かして見ますと、小屋はどれよりも小さいくらいで、竹の柱も古蓆ふるむしろの屋根も隣近所と変りはございませんが
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが今は、向うの蓆壁にかけられて、形ははっきりと見えませんが、入口のこもを洩れる芥火あくたびの光をうけて、美しい金の光輪ばかりが、まるで月蝕げっしょくか何かのように、ほんのりきらめいて居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)