良人ひと)” の例文
生憎あいにく、うちの良人ひとも、小荷駄衆のお侍から出頭しろといわれて、夕方、酒匂のお役所まで行きましたが、もう間もなく戻りましょう』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば、亡妻の黒髪を形見として肌身に附けている良人ひとが、いつまでも亡妻の思い出から遁がれることが出来ず、日に日に憂欝になり衰弱して行くように。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云うとお梅は涙ながら、これ/\う云う訳で御酒ごしゅを割って飲まなければけないと云うのをうち良人ひと直接じかに飲みましたから身体に障ったのでございましょう。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
両親おやもこんな事ならあんな学校に入れるんじゃなかったと悔やんでいましてね。それにあなた、そのはわたしはあの二百五十円より下の月給の良人ひとにはかない、なんぞ申しましてね。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いつものように、亡き良人ひとの前へ亡き良人ひとの在りし日の通りに、好む薄茶を立てて、静かに、朝のつとめに坐っていた時。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅「うち良人ひとが何うかましたから誰方どなたか来て下さいよう、總助さん/\」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夕餉ゆうげの支度から、うちのお良人ひとのお酒まで買っておいて、なにからなにまで済まして、ほんに用のない体でございます。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たき「誰か来ておくんなさいよ、うち良人ひとが大変でございますよ、人殺ひとごろしイ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「だいじょうぶ。うちの良人ひとときたら、お勤め第一の道楽なし。それにわたしのいうことならさ、なんだってもう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍務のことで、ついそこまで来たからといって、ついでに妻子の陣を、覗きに立寄るような良人ひとではないからだ。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちの良人ひとが真人間になってくれるよう、そして、世間のよい夫婦のよう、行く末に、今日の辛さや悲しみも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ、待ってよ。そう、せかせか帰らなくってもいいじゃないの。いま、うちの良人ひとも呼んでくるからさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身には生傷が絶えません、心には、暗いものがとれません、明けても暮れても眼を泣きらしているようでは、うちの良人ひとの気持もすさぶばかりでございます。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、只今申し上げたことには、少しも偽りがございませぬもの。それにもううち良人ひとは、出たが最後、居所などを知らせてきた試しのない人でございますから」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちの良人ひとが拾って来て、店まで持たせてやっている厄介者やっかいものの石秀——と見、巧雲は彼の眼のいろなど、気にしてもいなかったろう。心はただイソイソと先にある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『はい、きょうもうちの良人ひとと、噂をしていた所でございますよ。さあ、ばたへお寄んなすって』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とすると、何かにつけて、同じ年頃の女をみると、もしや、もしや? と思う私の気のせいだったんだね。アア、気のせいといえば、うちの良人ひともどうしたのだろう? ……
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちの良人ひとがいうことだから、そうあてにはならないけれど、どうもこの辺をよく牢人衆がうろついているのは、お前さんの生命いのちでも狙っているらしい……などと聞かされているものだからね
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこの若いお侍、おめえっちはまた、うちの良人ひとにぶつかって、物ずきに、血へどを吐きにやって来なしたのかよ。だが生憎あいにくうちの良人ひとは旅へ出ているので、生命いのちびろいしたようなものだげな」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)