致方しかた)” の例文
例えば他人ひとから預っておいた彫刻品が、気候のめに欠損きずが出来たとかいう様な、人力じんりょくでは、如何どうにも致方しかたの無い事が起るのである、このはなしをすると
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
それを云うと、非常な幻滅で、まるきり他愛のない落し話になって了うので、私も先を話したくないのですけれど、でも、事実は事実ですから、どうも致方しかたありません。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
濁水だくすいがゴーゴーという音を立てて、隅田川すみだがわの方へ流込ながれこんでいる、致方しかたがないので、衣服きものすそを、思うさま絡上まくりあげて、何しろこの急流ゆえ、流されては一大事と、犬の様に四這よつんばいになって
今戸狐 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
『お前は何を考がえて居るのだ。もって生れた気象なら致方しかたもないが、乃父おれはお前のような気象は大嫌だいきらいだ、最少もすこ確固しっかりしろ。』と真面目まじめの顔で言いますから、僕は顔も上げ得ないで黙って居ました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
みんな居る、寂しくはないよ。しかしどうだい。早瀬が来たら、誰も次のへ行って貰って、こうやって、二人許りで、言いたいことがあるだろう。致方しかたが無い断念あきらめな。断念めて——己を早瀬だと思え。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)