緒口いとくち)” の例文
通を曲って横町へ出て、なるべく、話の為好しいしずかな場所を選んで行くうちに、何時か緒口いとくちが付いて、思うあたりへ談柄だんぺいが落ちた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とほりまがつて横町へて、成るく、はなし為好しいしづかな場所を撰んで行くうちに、何時いつ緒口いとくちいて、思ふあたりへ談柄だんぺいが落ちた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これを緒口いとくちに、かわの手袋を穿めた女の関係を確かめたい希望が三ついっしょに働らくので、元からそれほど秩序の立っていない彼の思想になおさら暗い影を投げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人はそれを緒口いとくちにまた話を始めた。そうしてまた二人に共通な興味のある先生を問題にした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は真面目まじめに取り合う緒口いとくちをどこにも見出みいだす事ができないのみならず、長く同じ筋道を辿たどって行くうちには、自然気色きしょくを悪くした様子を外に現わさなければすまなくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はいったん緒口いとくちを失ったその問題を、すぐ別の形で彼の前に現わして来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
形式的に義務を済ました彼女が元の座に帰って、再び二人に共通な話題の緒口いとくちを取り上げた時、一方では急込せきこんだお時が、とうとう我慢し切れなくなって自働電話をてて電車に乗ったのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)