緋天鵞絨ひびろうど)” の例文
「いやにふけちまつたでせう。みんなさうつてよ。」とおいとは美しく微笑ほゝゑんで紫縮緬むらさきちりめん羽織はおりひもの解けかゝつたのを結び直すついでに帯のあひだから緋天鵞絨ひびろうど煙草入たばこいれを出して
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
盛り上りり下ぐる岩蔭の波のしたに咲く海アネモネの褪紅たいこう緋天鵞絨ひびろうどを欺く緋薔薇ひばら緋芥子ひげしの緋紅、北風吹きまくる霜枯の野の狐色きつねいろ、春の伶人れいじんの鶯が着る鶯茶、平和な家庭の鳥に属する鳩羽鼠はとはねずみ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かすみにさした十二本のかんざし、松に雪輪ゆきわ刺繍ぬいとりの帯を前に結び下げて、花吹雪はなふぶきの模様ある打掛うちかけ、黒く塗ったる高下駄たかげた緋天鵞絨ひびろうど鼻緒はなおすげたるを穿いて、目のさめるばかりの太夫が、引舟ひきふねを一人、禿かむろを一人
「いやにふけちまったでしょう。みんなそういってよ。」とお糸は美しく微笑ほほえんでむらさき縮緬の羽織の紐の解けかかったのを結び直すついでに帯の間から緋天鵞絨ひびろうど煙草入たばこいれを出して
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)