空似そらに)” の例文
「あの人は、少し気象が変っているから、何か気に入らないことがあって行ってしまったのか知ら、もしや、他人の空似そらにというものではないかしら」
千代子は夜ふけの風のまだ寒かつた晩、店のしまひぎはにふと見かけた人の姿は他人の空似そらにであつたのかも知れない。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、彼女もひとしく驚いた顔をした様子を見ますと、それは他人の空似そらにではなく、やはり丹頂のお粂であります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいつらの顔をみると、急にお俊を思い出して、こりゃあ占めたと思ったが、他人の空似そらにでやっぱりいけねえ。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
他人の空似そらにとはよく申したものでおさよ殿は、死なれた拙者の母御に生き写し……よく瓜を二つに割ったようなというが、これはまた割らんでそのまま並べたも同然——なあ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いくら見たとて——ありゃあ赤の他人の空似そらになんだあ。(引かえし来たり)文太、手前の元気が出てくるまで、俺あここで待っていて縛られてやるぜ——おう、また聞えてきた。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私はその後からろじへ足を踏み入れながら、またその名を呼ぼうとしたが、もし空似そらにの人があって、間違ってでもいたら、暗い巷の中ではあるし、変に思われてもならないと思ったので
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は自ら言った、「結局、他人の空似そらにに過ぎなかったのだろう。」
他人の空似そらにということはあるが、真実庄左衞門の娘かも知れぬ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
千代子は夜ふけの風のまだ寒かった晩、店のしまい際にふと見かけた人の姿は他人の空似そらにであったのかも知れない。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
果して、それがあの時のさむらい、宇津木兵馬様であるやらないやらは懸念けねんのことだけれども、今日の場合では、他人の空似そらにであっても、心強い感じがする。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
脇坂様のお屋敷へけ込んだりするものだから、殿様もすっかりに受けて、さっそく八丁堀へお手配てはいなすって、多分の御人数を繰り出してみると、あれアお前さん、他人の空似そらに
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
他人の空似そらにということは、よくある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)