穢土えど)” の例文
死者は知ることあるか、われ得てこれを知らず。死者は知ることなきか、われ得てこれを知らず。塊然の形、化して穢土えどとなる。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
われらも穢土えどの衆苦を去って、常寂光じょうじゃっこうの中にじゅうそうには伊勢物語をそのままの恋をするよりほかはあるまい。何と御身おみもそうは思われぬか。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
穢土えどを嫌い、浄土を願い、悪心を捨て、善心を発心し給う心さえあれば、三世の諸仏も必ずやお喜びのことと思います。
「この穢土えど濁世だくせいにこんな人達が、こんな人間生活が、そして、こんな地域があつたのか? いや、あり得たのか?」
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
この一節は、特に現世生活を穢土えどと罵り、途中の階段をヌキにして、一足飛びに極楽浄土にでも行こうとあせる夢遊病患者に対して、絶好の戒飭かいちょくである。
「ああ、ああ、穢土えどという処ほどくやしい処はないワイ。関白殿の御殿だとやらで、おれ達はお談義が聞かれないのだ。極楽へ行ったらこんな差別はなかろう」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
聖光院の土墻つちがきは、万野の眼に鉄壁のように見えた。穢土えどの闇と浄界の闇とをいかめしく境しているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現世は穢土えどであり、人情のまことは煩悩と見たから、聴衆の方は、子供を蹴とばすといった少々感情をしいたげたような、芝居がかりのことをする人間にえらさを感じたし、伝説の方も
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
譎詐奸曲きっさかんきょくの横行する俗の俗たる穢土えどとなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしそう云う微妙音びみょうおんはアメリカ文明の渡来と共に、永久に穢土えどをあとにしてしまった。今も四人の所化しょけは勿論、近眼鏡きんがんきょうをかけた住職は国定教科書を諳誦あんしょうするように提婆品だいばぼんか何かを読み上げている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なにもそう久しく穢土えどにいなければならないという筈のものではないのに、彼の阿闍梨ははるか後の世に仏のお出ましを待って現在に救わる道あるを知らずに池に棲み給うとは、おいたわしいことじゃ
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)