禿筆とくひつ)” の例文
ふと思い立って禿筆とくひつし、本書の主要部分である「キリスト教入門」の第三章以下、並びにはしがきに当たる「門をたたけ」の一篇を書き上げ
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
禿筆とくひつを用ゐて作つた草体が奔放を極めてゐる。引首印いんしゆいんと知足のしもの印一顆とがある。是が一つである。今一つは清川安策の五古で、是は文淵堂の花天月地くわてんげつち中に収められてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
或は此腐儒説の被保人等が窮余に説を作りて反対を試みんとすることもあらんか、甚だ妙なり。我輩は満天下の人を相手にしても一片の禿筆とくひつ以て之を追求して仮す所なかる可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
禿筆とくひつ文をなす、気のいかぬかぎりなり。しかれどもいかんせん。この日記の文字を見て禿筆のいかに失なるかを思うべし。墨もまた斜めにして短し。このごろ紙あるがうれしきのみ。
貧を記す (新字新仮名) / 堺利彦(著)
ただただ以上述ぶる所の場合に、終始一行の骨折ほねおり心配は、如何ばかりなりしぞ、実に予が禿筆とくひつの書き尽し得べき所に非ず、ねがわくは有志の士は自ら寒中登岳してその労を察せられんことを。
以上するところは、皆予が一身いっしん一箇いっこの事にして、他人にこれをしめすべきものにあらず。またこれをしるすとも、予が禿筆とくひつ、その山よりもたかく海よりもふかき万分の一ツをもいいつくすことあたわず。