神妙しんびょう)” の例文
初さんがこれほど叮嚀ていねいな言葉を使おうとは思いも寄らなかった。おおかた神妙しんびょうに下りましょうと出たんで、幾分いくぶん憐愍れんみんの念を起したんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふるに俊雄はひたすら疇昔きのうを悔いて出入ではいりに世話をやかせぬ神妙しんびょうさは遊ばぬ前日ぜんに三倍し雨晨月夕うしんげっせきさすが思い出すことのありしかど末のためと目を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
男「神妙しんびょうにしろ、ジタバタしたって仕方がねえ、てめえうちにア五百や六百ねえことはねえ、命が欲しけれア金を出せ」
さて牢屋敷から棧橋さんばしまで連れて来る間、この痩肉やせじしの、色の青白い喜助の様子を見るに、いかにも神妙しんびょうに、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬って
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
活きるか死ぬかというこれが情婦いろだったって、それじゃ愛想をつかしましょう、おまけにこれがく先は、どこだって目上の親方ばかりでさ、大概てえげえ神妙しんびょうにしていたって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その代り昔し神妙しんびょうなものが、今横着になるくらいだから、今の横着がいつ何時なんどきまた神妙にならんとは限らない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○「やい、神妙しんびょうにしろ、身ぐるみ脱いて置いてけ、手前達てめえたちは大方宇都宮の女郎を連出した駈落者かけおちものだろう」
まるで取附端とっつきはがない。やむを得ず呼吸いきを切らして、耳をがあんと鳴らして、黙ってあとから神妙しんびょういて行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)