石窟せっくつ)” の例文
屈んではいれる程度の、石窟せっくつのような家の口が、右側にあった。眠たげな赤い軒燈の下に、老酒ラオチュウびんが五ツ六ツ転がっているのを見る。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて西域出土物の室にはいつて、ムルックの石窟せっくつ寺のものだといふ壁画の断片を見たり、小さな像やつぼの破片を眺めたりした。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
古代インドの石窟せっくつの柱には、これに似た彫刻がきざまれていた。しかし、あれは動かぬ石の彫刻、ここのは生きてうごめく肉の彫刻である。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うさぎは弱い動物だ。その耳はやむ時なき猜疑さいぎに震えている。彼は頑丈がんじょう石窟せっくつに身を託する事も、幽邃ゆうすいな深林にその住居を構えることも出来ない。彼は小さなやぶの中に彼らしい穴を掘る。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仔細しさいを申せば、大唐だいとうの開山洞玄とうげん国師このかた、代々の老祖大仙たいせんが、魔ものを捕りおさえては、この石窟せっくつへ封じ込めおかれたもので、みだりに開くことはなりません
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「開かずの門か」と、こうはずかずか歩き出した。なにか、抵抗を感じたらしく見える。仰げば大絶壁。そこのすそをくりぬいた石窟せっくつなのだ。近づいてみると、かたわらの石柱いしばしらには
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)