真際まぎわ)” の例文
旧字:眞際
今朝送り出した真際まぎわは一時に迫って、妄想もうぞうの転変が至極迅速すみやかであッたが、落ちつくにつれて、一事についての妄想が長くかつ深くなッて来た。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
それでも、息を引きとる真際まぎわまで、うれしそうに、おれの両手を握りしめていたが——その顔は、今も忘れられねえんだ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
以仁王もちひとおう、源三位頼政等のかねてからの準備も成って、旗挙げの大事も実現に迫った真際まぎわに、その計画は、平家の知るところとなってしまった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっそり取り出してその名文を愛誦あいしょうし、遠く離れた周さんをなつかしんだものだが、卒業真際まぎわに、ある学友から取り上げられてしまって、いま思うと実に惜しいのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
嫁に往ってしまっては申訣がなく思ったろうけれど、それでもいよいよの真際まぎわになっては僕に逢いたかったに違いない。実に情ない事だ。考えて見れば僕もあんまり児供であった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
南無大師遍照金剛とえながら駈け廻った、八十七個所は落ちなく巡って今一個所という真際まぎわになって気のゆるんだ者か、そのお寺の門前ではたと倒れた、それを如何にも残念と思うた様子で
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
勅使に対しては、当然そうなければならない幕府の裁断さいだんは裁断として、他にまた、何等かの活路をつけて、御一命だけは、真際まぎわにお救いがあるかも知れない——。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あッしにゃあ、詳しいわけはわかりません——だが、お杉さんが、引かれる真際まぎわに、役人に薬を使って、着物を着更えながら、紅筆で、あっしに書きのこして行ったんですよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「明朝、水戸へお立帰りの真際まぎわまで、何とぞ、お暇をたまわりますように」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ再び尾張へ向けて立つ真際まぎわに、かねての打合せどおり、義平を木曾路へ、次男朝長を信州方面へ打立たせたが、朝長は前から悩んでいた手創てきずに耐えかねて、途中から父の許へ引っ返して来て
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)