癆咳ろうがい)” の例文
凄艶な癆咳ろうがいの女と刀の姿とが、その美をぎ合って争うように見られたが、弦之丞は刀をやや手元へよせて、軽く打粉うちこをたたいていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蒜は肺の薬になるげじゃけれども、わしはこう見えても癆咳ろうがいとは思わん、風邪のこじれじゃに因って、熱さえれれば、とやっぱり芭蕉じゃ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現にこの一と月ばかりは、持病の癆咳ろうがいが重くなって、三度の食事も床の上に運ばせております。
ある大店の娘御が、癆咳ろうがいを病って寮住居、年頃だから恋がほしい、そこでぜひとも『思ひそめしが』と、誰かに口説いて貰いたい、そこでその盆をほしがっているうち、病気が進んでなくなられた。
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
熱病のような本能の情炎が、またそれをあおる癆咳ろうがいという美しき病の鬱血うっけつが、たまたま自分という対象に燃えているだけなのではないか。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可哀想に、あんなに綺麗で優しかった、お浜が——医者は癆症ろうしょうだと申しますが、せき一つしない癆症というものがあるでしょうか、癆症は癆咳ろうがいと申しまして、咳のひどい病気だと聴いておりますのに。
ただ、幾分か、お米にとってよろこぶべきことは、あの癆咳ろうがいの病のかげが、大阪にいた頃より大層よくなっていることだった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに親類の娘というお町が、長い癆咳ろうがいを患って寝ているのでした。
それを、おのれも知る癆咳ろうがいといういまわしい病が邪魔をする時、お米は、その悪魔を飼っている自分の血とのろわれた身を亡ぼしてやりたくなる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重い癆咳ろうがいでとうとう去年の暮死んでしまったというのです。
川長の愛娘まなむすめで、縹緻きりょうのよさもすぐれながら、お米に一ツの不幸がある。癆咳ろうがいというやまいのろい——いわゆる肺が悪かった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしておくれよ、お嬢さんなんて、私はもう、生娘きむすめじゃない、男のために、さんざんになった女だよ。おまけに、癆咳ろうがいもちで、長生きのできない、女なんだよ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「拙者が、阿波へ連れて行こうというのは、恋ばかりではない。そなたの苦しむ癆咳ろうがいにも、あのしおの香や山の気が、どんな薬よりもくであろう——、そう思うてすすめるのじゃ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それよりは、癆咳ろうがいなおさねばいかんぞ。今度会うまでに、もっと、ふとっておれよ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その母という人は、美人ではあったが、癆咳ろうがいで、若死にをしたという話も……
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「てめえじゃございませんが、何でも、癆咳ろうがいにはひどくくという噂なんで、ごひいき先のお嬢様が、病気にかえられないから、すえてほしいというんですが……。たしかに、灸で、なおりましょうか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そう、癆咳ろうがいだから……」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)