疳性かんしやう)” の例文
商売と思つて目をつぶつても瞑り切れないものがあつた。疳性かんしやうに洗つても洗つても、洗ひ切れない汚涜をどくがしみついてゐるやうな感じだつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
疲労したあまり不機嫌になつた大石練吉は、手荒く疳性かんしやうに衣裳をくるくると巻きながらいつもよりも激しくその切れ目をぱちぱちさせて云つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
「ありますよ。雇人やとひにんが入るんで、毎晩立ちますが、私は疳性かんしやうで、流しの廣い、上り湯のフンダンにある錢湯でないと、入つたやうな氣がしません」
何気なく聞き流して、ゆき子は、釦を取つて、一寸胸にあててみたが、釦のとれたあとの糸屑を疳性かんしやうに引つぱりながら
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
僕は日本に居て自分で手をくだす外誰にも書斎の物の位置を替へさせ無かつた程の疳性かんしやうだのに、この主婦の大掃除の仕方は全然僕の気につて仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それには××八幡宮玉串と大きな文字が刷られて、その傍に「辰の歳の男疳性かんしやう平癒」と書いてあつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
癖だね。毎晩きまつて、夜半過ぎに——子刻こゝのつから丑刻やつの間に、暑くとも寒くとも、必ず小用に起きましたよ。——それに恐ろしい疳性かんしやうで、雨戸を開けて、手を
「あゝ、人臭い、人臭い……」と疳性かんしやうに云つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
年はもう六十恰好、お酒を頂くと、疳性かんしやうで、素裸でなければ眠られないといふ厄介な親爺、これも遠縁の飼ひ殺しで、こんな時役に立つやうな人間ではありません。
「主人の金右衞門が疳性かんしやうで、何處か開いてゐなきや夜寢付けなかつたといふぜ」
頭痛持ちで疳性かんしやうだから、夜風に吹かれるのが好きで、チヨイチヨイ出かけます、——本當に頭痛持ちなんですね。頭へ油をつけるのが嫌ひで、三日に一度、五日に一度は洗ひ髮にして居ります。
「搜しましたよ。大掃除おほさうぢほどの騷ぎをしましたが、床下にも、天井裏にも、押入にも疊の目にも、のみ一匹隱れてゐるこつちやございません。この通り、親分は疳性かんしやうで、掛物も置物もない部屋です」