田舎縞いなかじま)” の例文
旧字:田舍縞
私達は眺望ちょうぼうのある二階の部屋へ案内された。田舎縞いなかじまの手織物を着て紺の前垂を掛けた、髪も質素に短く刈ったのが、主人であった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桂次が今をるここもとは養家の縁に引かれて伯父伯母といふ間がらなり、はじめてこのへ来たりしは十八の春、田舎縞いなかじまの着物に肩縫あげをかしと笑はれ
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私の考えでは、村で養蚕ようさんができるなら、百姓はその糸をつむいで仕事着にも絹物きぬものの着物を着て行けばいい。何も町の商人から木綿もめん田舎縞いなかじまや帯を買う必要がない。
大抵はカスリや田舎縞いなかじまの着物に小倉の袴、帽子も思い思い、朴歯ほおばの下駄や竹の皮の安草履を突っ掛け、汚れた風呂敷へ教科書や弁当箱を包んで、首っ玉へ巻き付け
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
田舎縞いなかじまの縞目も分らぬ程に、よごれて黒光りに光った、ツンツルテンの着物を着た、十歳前後の腕白共わんぱくどもが、口々に囁き交して、おずおずと、彼の方へ近づいて来ました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
田舎縞いなかじまの羽織を着た、この辺の食物屋なんかへ入りそうもない人でしたよ、いきなり欄干を下から見たいから、階下の部屋が良いと仰っしゃって、川へ近い座敷へ通りましたが
割合に無口なお里は織りかけた田舎縞いなかじまの糸をしらべながら、この兄妹きょうだいの話に耳を傾けていた。お民は思い出したように
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)