べん)” の例文
それは徑一寸二三分の眞鍮板で、形は四つべんの梅の花、しべのところの模樣は、まん字になつて居るといふ、世にも變つた品でした。
見ていると、海草のヌルヌルした青黒い密林が、おどろおどろと乱れゆらいで、白い五べんの花が、ポッカリと咲き出でた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは梅雨頃から咲きはじめて、一つが朽ちかかる頃には一つが咲き、今も六べんの、ひっそりした姿をたたえているのだった。次兄にその名称をくと、梔子くちなしだといった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
立寄りて草を分けて見れば、形すみれよりはおほいならず、六べんにして、其薄紫の花片はなびらに濃き紫の筋あり、しべの色黄に、茎は糸より細く、葉は水仙に似て浅緑柔かう、手にせば消えなむばかりなり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
百花千べんの謎と化してしまうような事実が吐かれていった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いはが根にともすれば寄る花のべん風無かりけり動きつつ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
柳や菩提樹ぼだいじゆべんの多い
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
生白なまじろい五つの花べんはひとでの様に物欲しそうに、キューッキューッと海水を締めつかんだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
江戸の閑人ひまじんの好奇心は、途方もないところまで發展しました。落首と惡刷りと、グロテスクな見世物が、封建制の彈壓と、欝屈うつくつさせられた本能の、已むに已まれぬ安全べんだつたのかも知れません。