玩弄物がんろうぶつ)” の例文
氏によれば仏教美術も万葉の歌も少数知識階級の玩弄物がんろうぶつであって、「一般民衆の心と関係あるものではない。」果たしてそうであろうか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
迷信者の玩弄物がんろうぶつであったものがかえってほとんど科学的に真な本能的の「我れ」を読み取る唯一の言葉であるように思われて来たのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
監獄のよりも高い煉瓦塀れんがべいの取りめぐらされた、工場の中に吸い込んでしまって、その中の上出来なのを、自分らの玩弄物がんろうぶつなる「めかけ」にしてしまうんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いつしか彼女たちは河内介の今夜の催しが、結局は人の悪い冗談であったと思い返すようにさせられ、しまいには唯道阿弥一人がみんなの玩弄物がんろうぶつになって
故にいわく、多妻多男の法は今世こんせいを挙げて今人こんじん玩弄物がんろうぶつに供するの覚悟なれば可なりといえども、天下を万々歳の天下として今人をして後世に責任あらしめんとするときは
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
後世の男子が我儘わがまま玩弄物がんろうぶつの如く女子を選ぶよりも、更に数層はなはだしい強圧即ち暴力を以て女子を掠奪りゃくだつしたのであるから、当時の女子に純潔をすることの出来なかった事は想像が附く。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
これやア貫之風つらゆきふうだ。しかし歌というものは実に美術の一つで。なくっちゃアならないものサ。このごろの西洋家は玩弄物がんろうぶつのようにいう人もあるそうだが。実にそういうものじゃアない。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
帳面上洗礼を受けしものの増加せしを以て伝道事業の成功せしと信ずる宣教師——これらはみな肉眼を以て歩むものにして信仰に依て生くるものにあらざるなり、玩弄物がんろうぶつもてあそぶ小児なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかして世上往々政治をもって一の玩弄物がんろうぶつとしてその経験をば烟火えんかのごとく愉快なるものとなし、その問題をば詩人の花鳥風月における、小説家が人情の変態におけると一般の思いをなし
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ラプンツェルは、いまは、野蛮の娘ではない。ひとの玩弄物がんろうぶつではないのである。深い悲しみと、あきらめと、思いやりのこもった微笑を口元に浮べて、生れながらの女王のように落ちついている。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
連句はその末流の廃頽期はいたいきに当たって当時のプチブルジョア的有閑階級の玩弄物がんろうぶつとなったために、そういうものとしてしか現代人の目には映らないことになった。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これを女にばかり責めるのは、性的玩弄物がんろうぶつとして、炊事器械として、都合の好いように、女子を柔順無気力な位地に退化せしめて置く男子の我儘わがままからであるといわれても仕方がないでしょう。
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)