燕尾えんび)” の例文
そもそも水矢の鏑には、普通には燕尾えんび素槍形すやりがた蟹爪かにづめのいずれかをもちいますのが方式。しかるに、この傷は猪目透いのめすかし二字切となっております。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ごまかすことができようとは思いもよらなかった。するとメルキオルはうまい考えを思いついた。燕尾えんび服をきせて白いえり飾をつけさせようときめた。
全員ことごとく燕尾えんび服というときに、饗応役の自分だけは何事も知らず、紋附、袴で出かけてゆく筈はあるまい。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
毛の硬いもみあげが旋風つむじを描き、節級冠せっきゅうかん燕尾えんびがこの者の俊敏さをあだかも象徴しているようにみえる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金筋のはいった英国風の燕尾えんび服を着せて、もっと家柄の高い旧家同様の習慣しきたりに改めなければ自分の友達たちが来ても、肩身が狭くて仕方がない……というのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
燕尾えんび服をつけた給仕が、銀盆に一枚の名刺を置いて、ものものしく妾達の卓子の前で、黒い尾を折りました。支配人が妾に面会人を告げたのですが、妾は機械的に首を横にふりました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
アッシェンバッハは右舷のほうへ歩を移した。そこに例のせむし男が、かれのために寝椅子をひろげておいてくれたのである。そしてしみだらけの燕尾えんび服を着た給仕スチュワアドが、かれの用向をたずねた。
その上衣は軽いラシャで、広い折りえりと、長い燕尾えんびと、大きな鉄のボタンとがついていた。それに加うるに、短いズボンと留め金つきのくつ。そしていつも両手をズボンのポケットにつっ込んでいた。
けれど老成してござるからひじりといってもおかしくない。めしい最上のくらいなので、ころもに、検校帽子をかぶり、後ろに燕尾えんびを垂れて行くさまは、唐画とうがの人を見るようじゃったな
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷口に依って考えると、この太刀は、下からしゃくり上げて、しかも燕尾えんびね返したものらしい。さもなければこう鮮やかに、頸動脈を狙って、貝の肉をぐようにえぐれている筈はない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)