煦々くく)” の例文
煦々くくたる法文に拘泥して国家の重きを忘るるは学究の迂論うろんなり、宜しく法律を活用して帝国を危急の時に救うべしというにあった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
はその中腹あたりの岩肌をキラキラと輝かせているが、天地万物せきとしてしかも陽だけが煦々くくとして、なごやかにこの野原に遊んでいる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「これで一切のくくりがついた、やがて、花も咲けば実もむすばれよう」と彼は誰にともなく云った、「——春日煦々くくの船出じゃからのう」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
玻璃ガラス張りの天蓋まるてんじょうを透して降りそそぐ煦々くくたる二月の春光を浴びながら、歓談笑発して午餐に耽る凡百の面々を眺め渡せば、これはさながら魑魅魍魎ちみもうりょうの大懇親会。
村田むらた煙管きせるいまだ世に出でざりし時、われらが祖先は既にシガレツトを口にしつつ、春日しゆんじつ煦々くくたる山口の街頭、天主会堂の十字架を仰いで、西洋機巧の文明に賛嘆の声を惜まざりしならん。
こうやって、煦々くくたる春日しゅんじつ背中せなかをあぶって、椽側えんがわに花の影と共に寝ころんでいるのが、天下の至楽しらくである。考えれば外道げどうちる。動くと危ない。出来るならば鼻から呼吸いきもしたくない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右手彼方にはきざはし高く大理石の円柱林立して、エフィゲニウス邸の大殿堂が空を圧してそびえ立ち、陽光は煦々くくとして建物を蒼穹あおぞらの中に浮き立たせ、ペンをきしませている私の指先に戯れ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この小径の尽きたところ一面に平坦な広場となって——そしてここが山の頂上らしく、陽光煦々くくとして明るく戯れているのであったが、——この辺の右側左側に佇んでいる石造りの家々であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)