火熱ほて)” の例文
そうするとその都度たびに胸が微かにドキドキして、顔がポーッと火熱ほてるような気がしたのは今から考えても不思議な現象であった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そろそろ酔の廻った叔父は、火熱ほてった顔へ水分を供給する義務を感じた人のように、また洋盃コップを取り上げて麦酒ビールをぐいと飲んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒吉は、頭がカーッと火熱ほてって来た。そして、片足の男とは思われぬほどの、恐ろしい速さで、原っぱを駈け出した。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自分の手が火熱ほてッて来るほど打ッてやると、お蝶は胸がスッとすいて、同時に急におかしくなって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと一緒に身体じゅうの皮膚がポッポと火熱ほてり出して、燃え上るような気持ちになって来るもんだから、その苦し紛れに相手をシッカリと掴まえようとすると……ホラ
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
燃えついたばかりのほのおに照らされた主婦の顔を見ると、うすく火熱ほてった上に、心持御白粉おしろいけている。自分は部屋の入り口で化粧のさびしみと云う事を、しみじみと悟った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恥かしいのか、怖ろしいのか、又は悲しいのか、自分でも判然わからない感情のために、全身をチクチクと刺されるような気がして、耳から首筋のあたりが又もカッカと火熱ほてって来た。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてその強い調子が、どこまでも冷笑的に構えようとする彼の機鋒きほうくじいた。お延にはなおさらであった。彼女は驚ろいてお秀を見た。その顔は先刻と同じように火熱ほてっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)