あたたま)” の例文
荒尾譲介は席のあたたまひま手弄てまさぐりに放ちもらぬ下髯したひげの、長く忘れたりし友の今を如何いかにとるにいそがしかり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お互の身体が少しあたたまってくると、湯気が立った。蟹の生ッ臭いにおいがムレて、ムッと鼻に来た。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
それは人間の身体が静かになりあたたまつて来ると動き出す虫のやうに、どつかでもぞもぞしはじめ、ひとりでに歩き出し、遂ひにあたりにひろがつて、知らぬまに房一の身心をすつぽりと包んでしまつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)