渦捲うずま)” の例文
渦捲うずまいて去る水の、岩に裂かれたる向うは見えず。けずられて坂と落つる川底の深さは幾段か、乗る人のこなたよりは不可思議の波の行末ゆくえである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藍色の空には、白く光る雲が、糸のように流れているばかり…………崖の下には、真青まっさおく、真白く渦捲うずまきどよめく波の間を、遊び戯れているフカの尻尾しっぽやヒレが、時々ヒラヒラと見えているだけです。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし健三は毎晩暗い灯火ともしびの影で彼を見た。その険悪な眼といかりふるえる唇とを見た。咽喉のどから渦捲うずまけむりのようにれて出るその憤りの声を聞いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渦捲うずまく煙りをつんざいて、白い姿は階段を飛び上がる。ホホホホと鋭どく笑う女の声が、廊下に響いて、静かなる風呂場を次第にむこう遠退とおのく。余はがぶりと湯をんだままふねの中に突立つったつ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)