清香せいこう)” の例文
何百人とも知れぬ男女が「蓮華王」か「清香せいこう真壺」を一つずつ抱え、列をつくって旅亭の木戸が開くのを待っている。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今日やうやく一月のなかばを過ぎぬるに、梅林ばいりんの花は二千本のこずゑに咲乱れて、日にうつろへる光は玲瓏れいろうとして人のおもてを照し、みちうづむる幾斗いくと清香せいこうりてむすぶにへたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分はきょうは一日、堀川添ほりかわぞいの閑居へ来て終日読書している。自分のつくった菊がこの好日の下に清香せいこうを放っているが訪う人もないのを嘆じている。あなたの御都合はどうか。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この爽麗そうれいなる温室内に食卓を開きて伯爵家特有の嘉肴珍味かこうちんみきょうす。このうちに入る者はあたかも天界にある心地ここちしてたちまち人間塵俗じんぞくの気を忘る。彩花清香せいこう眉目びもくに映じ珍膳ちんぜん瑶盤ようばん口舌をよろこばす。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)