浅葱桜あさぎざくら)” の例文
姿がいからといって、糸より鯛。——東京の(若衆)に当る、土地では(小桜)……と云うらしいが浅葱桜あさぎざくらで、萌黄もえぎ薄藍うすあいを流したぶりの若旦那。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ふん」と受けた藤尾は、細い首を横に庭のかたを見る。夕暮を促がすとのみ眺められた浅葱桜あさぎざくらは、ことごとくこずえを辞して、光る茶色の嫩葉わかばさえ吹き出している。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「駄目ですか。あの桜は珍らしい。何とか云いましたね。え? 浅葱桜あさぎざくら。そうそう。あの色が珍らしい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふもとからあがろうとする坂の下の取着とッつきところにも一本ひともと見事なのがあって、山中心得さんちゅうこころえ条々じょうじょうを記した禁札きんさつ一所いっしょに、たしか「浅葱桜あさぎざくら」という札が建っていた。けれども、それのみには限らない。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おぼろとも化けぬ浅葱桜あさぎざくらが、暮近く消えて行くべき昼の命を、今少時しばしまもえんに、抜け出した高い姿が、振り向きながら、瘠面やさおもての影になった半面を、障子のうちに傾けて
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白の狩衣、紅梅小袖、ともしびの影にちらちらと、囃子の舞妓、芸妓など、霧に揺据ゆりすわって、小鼓、八雲琴やくもごと調しらべを休むと、後囃子あとばやしなる素袍の稚児が、浅葱桜あさぎざくらを織交ぜて、すりがね、太鼓のも憩う。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)