河心かしん)” の例文
船はまた大江たいこう河心かしんに出る。石船の帆が白く、時に薄い、紫の影の層をはらんで、光りつつ輝きつつ下をまた真近を、群れつつ、離れつつ去来する。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
河舟かわぶねの小さなのが岸につないであった。豊吉はこれに飛び乗るや、ともづなを解いて、みざおを立てた。昔の河遊びの手練しゅれんがまだのこっていて、船はするすると河心かしんに出た。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
考えてみると、河床かわどこは、河心かしんへ向って、だんだんに深くなっているので、雨ふり揚句あげく水嵩みずかさが増した時などには、其の方へだんだん移動してゆくのが自然だった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは盛んだな」と私はまた、一人が飛び、ひるがえったむこうの投水台とうすいだいの強いかがやきをうち見やった。警戒標の旗の先だけが、その下の河心かしんに赤い点をうっている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「あいにく、こよいは満月。あまり河心かしんへ漂い出るな。遠目も恐い」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見おろす一面の河幅かふくは光り、光の中に更に燦々さんさんたるものが光って、その点々を舷側げんそくに、声なく浮ぶ小舟がある。小舟には一、二の人かげの水にうつって、何やらしきりにさお河心かしんを探っている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)