気息けはい)” の例文
旧字:氣息
音もせぬ雪は一時間のうちほどつもったらしい。庭には雪を踏む跫音あしおとががさがさと聞えて、雨戸の外へ何者か窺い寄るような気息けはいを感じた。二人は顔を見合わした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
糸七の気早く足へ掛けたバケツの水は、南瓜にしぶいて、ばちゃばちゃ鳴るのに、障子一重、そこのお京は、気息けはいもしない。はじめからの様子も変だし、消えたのではないか、と足首から背筋が冷い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
市郎は我が背後うしろかすかに物の動く気息けはいを聞いたので、何心なにごころなくみかえると、驚くべしのお杉ばばあは手にすましたる小刀こがたな振翳ふりかざして、あわや彼を突かんとしているのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この時、背後うしろの方から不意に物の気息けはいが聞えて、何者か忍び寄るようにも思われたので、市郎は手早く蝋燭をって起上たちあがると、余りに慌てたので、彼は父の死骸につまずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
途中は長い廊下、真闇まっくらなかで何やら摺違すれちがつたやうな物の気息けはいがする、これと同時に何とは無しにあとへ引戻されるやうな心地がした。けれども、別に意にもめず、用をすまして寝床へ帰つた。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)