正鵠せいこう)” の例文
技巧の批評のできない三四郎には、ただ技巧のもたらす感じだけがある。それすら、経験がないから、すこぶる正鵠せいこうを失しているらしい。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
サア・オルコツクの日本婦人は、とにかく、マツクフアレエンのそれよりも、正鵠せいこうを得てゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
他のためにせんとする衝動しくは本能を認めて、これを利他主義といい、己れのためにせんとする衝動若しくは本能を主張してこれを利己主義というのなら、その用語は正鵠せいこうを失している。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こういうような実際矛盾むじゅんしている表裏的の事柄と、個人々々の性格なりあるいは生計なりにおけるいわゆる矛盾とは、よくこれを判別しなければ、人を判断するにおいて正鵠せいこうを失し、混乱をまぬかれぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もしこの想像が正鵠せいこうを得るものとすれば、ローマ帝国時代よりも、近世国家の樹立以後における欧洲の秩序が、一層紊乱しておらなければならぬ。はたしてそうであろうか。余の意見はこれと反対だ。
と団さんは書生時代の経験から柄になく正鵠せいこうを得た。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれども戦争の経過につれて、彼等の公表する思想なり言説なりに現れて来る変化を迹付あとづければ、自分の考への大して正鵠せいこうを失つてゐない事だけほゞたしかなやうに思はれる。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
公衆の批判は、常に正鵠せいこうしつしやすいものである。現在の公衆は元より云ふを待たない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)