森羅しんら)” の例文
湛然たんぜんとして音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗えいろうたるおもてを過ぐる森羅しんらの影の、繽紛ひんぷんとして去るあとは、太古の色なきさかいをまのあたりに現わす。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明治二十五年壬辰じんしんの四月九日はどんないい星まわりの日であったか、わたくしは森羅しんら万象から美を見いだす能力を与えられ、また師友や家族のすべての愛情の中に生きることのできるのは
幸福のなかに (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
さみだれの降るところ、決まってまたついてまわるものは、俗に幽霊風ととなえるあのぬんめりとした雨風で、しかも時刻は森羅しんら万象ものみなすべてが、死んだような夜中の九ツ下がり——。
ば見た事もなしと云しが扨々俗家に云ぬす猛々たけ/″\しとは汝が事なり今更かゝる惡人にかはことばはなけれども釋迦しやかは又三界の森羅しんらしやう捨給すてたまはず汝の如き大惡人ぜん道にみちびき度思ふがゆゑ及ばずながら出家につらなる大源が申處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある特別の感興を、おのが捕えたる森羅しんらうちに寓するのがこの種の技術家の主意であるから、彼らの見たる物象観が明瞭めいりょうに筆端にほとばしっておらねば、画を製作したとは云わぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)