棒手振ぼてふり)” の例文
お奉行さまが要れば牢番ろうばんも要る、米屋も桶屋おけやも、棒手振ぼてふり紙屑かみくず買いも、みんなそれぞれに必要な職だ。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甚九郎の隣に源吉と云う独身ひとり者が住んでいた。棒手振ぼてふりが渡世で夜でないと家にはいなかった。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みすぼらしい棒手振ぼてふりから仕上げて、今日ではその名を知らないもののないほどの大尽であります。それは国内に聞えた大尽であるのみならず、外国人を相手に手広い商売をしました。
……左衛門町の棒手振ぼてふりの金蔵というのが、藤五郎が生洲いけすへ手を入れているところへ行きあわした。どういうはずみだったか、そのとき銀の腕守の留金がはずれて生洲の中へ落っこちた。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
買手の中には、女の棒手振ぼてふりも二三人いる。殆ど同じ装束で、短い着物の下に、あわせの腰巻をはき、紺の脚絆をつけている。市を待つ間などには、かなり卑猥な会話も交されているらしい。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
貝殻を敷いた細いきたない横町で、貧民窟とでもいいそうな家並だ。山本屋の門には火屋ほやなしのカンテラをとぼして、三十五六の棒手振ぼてふりらしい男が、荷籠を下ろして、売れ残りの野菜物に水をれていた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
棒手振ぼてふりを渡世にしておりました時のことでございますから、さあ、文政の二三年、いや、もうすこし後でございましたかな、東本願寺の門跡様が久かたぶりで御下向遊ばすと云うことになりますと
尼になった老婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)