板間いたま)” の例文
そこを突き抜けた正面の座敷が応接間であった。応接間の入口は低い板間いたまで、突当りの高い所に蒲団ふとんが敷いてある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言って、小君は板間いたま上敷うわしきをひろげて寝た。女房たちは東南のすみの室に皆はいって寝たようである。小君のために妻戸をあけに出て来た童女もそこへはいって寝た。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
不破の関の板間いたまに、月のもるこそやさしけれ。ありがたの利生りしょうや。おありがたの利生や。仏まいりの利生で、妻に行きあうたのう。悪しきを払うて助けたまえ、天理おうのみこと。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
飛鈷ひこ地に落ちて嶮にひし古松の蔭、なかば立木を其儘に結びたる一個の庵室、夜ごとの嵐に破れ寂びたる板間いたまより、漏る燈の影暗く、香烟窓を迷ひ出で、心細き鈴の音、春ながら物さびたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
湯槽ゆぶねの方はこれぐらいにして板間いたまを見渡すと、いるわいるわ絵にもならないアダムがずらりと並んでおのおの勝手次第な姿勢で、勝手次第なところを洗っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平家作ひらやづくりの西洋館で、ゆかの高さが地面とすれすれになるほど低い。板間いたまではあるが無論靴で出入でいりをする。宿の女は草履ぞうり穿いていた。遠くから見たと同じように浮き立たない家であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)