松魚かつを)” の例文
かはやぶれ、にくたゞれて、膿汁うみしるのやうなものが、どろ/\してゐた。内臟ないざうはまるで松魚かつを酒盜しほからごとく、まはされて、ぽかんといた脇腹わきばら創口きずぐちからながしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
酒のさかなにはやつこ豆腐か松魚かつをの刺身かがあつたら、猫のやうにころころ咽喉のどを鳴らす事が出来た。
この頃は松魚かつをがたいへん美味い。その皮つきの刺身なら、私は毎日でも文句をいはずに食べる。
日付のない日記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
「松琴楼題長谷川雪旦画松魚。」松琴楼しようきんろうは料理店松金まつきんで、湯島天満宮境内、今の岩崎氏控邸ひかへやしきの辺にあつた。此楼に上つて雪旦の松魚かつをの画に詩を題したのであらう。詩は略する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
『江戸では、今は松魚かつをさかりですな』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
岡野氏はその前房州へ往つた折、うまい松魚かつをを食はされたが、生憎あひにく山葵が無くて困つた事を思ひ出して、出がけに出入でいりの八百屋から山葵をしこたま取寄せる事を忘れなかつた。