朴直ぼくちょく)” の例文
朴直ぼくちょく子路の方が、その単純極まる師への愛情の故であろうか、かえって孔子というものの大きな意味をつかみ得たようである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そういう誤解の例は、新しい作品を愛することはできないが、それが二十年もの歳月を経ると心から愛するような、朴直ぼくちょくな人々にしばしばある。
朴直ぼくちょくなひとに有りがちの単純さで、話すうちにおたかはまた庄吉への同情を激しくそそられたらしい、口ぶりにも顔つきもさっきのうちとけた色はなくなって
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朴直ぼくちょくそうな六十おやじは、湖岸から半道あまりをけつけて来た禿げ頭の汗を押しぬぐいつつ、悔やみを述べる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
本陣は村じゅうでいちばん人がいいといわれるとおりおそらく国じゅうでも最も善良な人のひとりであろう。その善良朴直ぼくちょくのゆえに私は心からこの人を愛する。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
粗野で魯鈍ろどんではあるが、しかし朴直ぼくちょくな兼吉の目からは、百姓らしい涙がほろりとそのひざの上に落ちた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実情実景そのままを朴直ぼくちょくに叙するところに俳句の新生命はあるのであると大悟して、それ以来、今日に至るまでいわゆる芭蕉文学たる俳句は展開されて来たものとすれば
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
無口で朴直ぼくちょくなあの男、寝食を共にしていたあの男の行方ゆくえが、今以て不明である——女軽業のお角という女を平沙ひらさうらから救い出して、ここの生活に一点の色彩を加え出したと同時に
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人間は朴直ぼくちょくであって、腕は、お前の秘蔵弟子だけに見所みどころのある男であったが、不意に行方知れずになった、手を尽して捜索したが、どうもわからぬ、あの辺の海は危険な海であるから、ことによると
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)