どん)” の例文
と云って、別に平然ともしていない。気がついたのは、ただその眼である。老人はどんよりと地面の上を見ていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日中ひなか硝子ビイドロを焼くが如く、かっと晴れて照着てりつける、が、夕凪ゆうなぎとともにどんよりと、水も空も疲れたように、ぐったりと雲がだらけて、煤色すすいろの飴の如く粘々ねばねば掻曇かきくもって、日が暮れると墨を流し
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何人なんびとをも不安にしなければやまないほどな注意を双眼そうがんに集めて彼を凝視した。すきさえあれば彼に近付こうとするその人の心がどんよりしたひとみのうちにありありと読まれた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車に乗るときどんよりした不愉快な空を仰いで、風の吹く中へ車夫をけさした。路は歯の廻らないほど泥濘ぬかっているので、車夫のはあはあいう息遣いきづかいが、風にさらわれて行く途中で、折々余の耳をかすめた。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)