新堀しんぼり)” の例文
しほは落魄らくたくして江戸に来て、木挽町こびきちょうの芸者になり、ちとの財を得て業をめ、新堀しんぼりに住んでいたそうである。榛軒が娶ったのはこの時の事である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「そいつは気がつかなかったが、いずれ、この屋敷を出て行くからには、春日道かすがみち新堀しんぼり渡舟わたしへ出るにきまっている」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ天則か。天則果してかくの如く偏曲なる可きか。請ふ、いて生活の敗者に問へ、新堀しんぼりあたりの九尺二間には、迂濶うくわつなる哲学者に勝れる説明を為すもの多かるべし。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
菊屋橋きくやばしのかけられた新堀しんぼりの流れ。三枚橋さんまいばしのかけられていた御徒町おかちまち忍川しのぶがわの如き溝渠である。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
囚人を伝馬町てんまちょうの牢からひきだして駕籠に乗せ、南と北の与力と同心がおのおの二人ずつ八人がつきそって御浜おはま永代橋えいたいばし、さもなければ蠣店かきだな新堀しんぼり、そのどこかの河岸まで持って行きますと
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
新堀しんぼりにして、栄久町えいきゆうちよう三筋町等に沿ひ、菊屋橋合羽橋等の下に至る。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そのころ新堀しんぼりを隔てた栄久町えいきゅうちょうの小学校に通う一人の少女があった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
新堀しんぼりの浪花屋の土蔵へ穴を明けた野郎がありますよ」
光太郎のうちはもと銀座の一丁目にあって、おけいの家は新堀しんぼりにあった。
黄泉から (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「何んだ。新堀しんぼり鳶頭かしらぢやないか」
「なんだ。新堀しんぼり鳶頭かしらじゃないか」