敬々うやうや)” の例文
娘に向つて、敬々うやうやしく、頭をたれたのである。そればかりではなかつた。頭を畳にすりつけて、殆んど一分間ぐらゐ、平伏してゐる。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そんな敬虔けいけんな筒井の眼のつかい、手の敬々うやうやしい重ねようはこのみ仏をまもるには、筒井より外にその人がらがありそうも覚えなかった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私はいきなりその手を押えようと思って、フと気がついたんです、四辺の食卓には多数おおぜいの人がいるではありませんか、ボーイも背後に敬々うやうやしく立って見ています。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
と隠居は財布のヒモをほどいて、定めのお初穂はつほ百二十文もん敬々うやうやしく差上げて立ち帰りました。ところが待てど暮らせど失せ物は現れません。
石川親分、現業員に敬々うやうやしく迎えられて、ちょっと視察していたが、作業場の主任をつれて戻ってきて、また自動車を走らせる。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
信長は狩衣をきて、堀にかゝる橋の橋板の上に立ち、工事を指図してゐたが、フロイスが遥か遠い所から敬々うやうやしく一礼するのを見て、さしまねいた。
敬々うやうやしく近づくボーイに目もくれず、まずサロンをゆっくり見廻したが、二人の姿も、長平の姿も見えない。スペシャル・ルームにひッこんでいるのだ。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
手拭ひを三宝にのせ、これに「よだれふき」と麗々しく認めた奴を敬々うやうやしく禅僧の前へ運んでいつたものである。
禅僧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
自分と太宰の写真を飾って死に先立って敬々うやうやしく礼拝しようと、どんなにバカバカしくても、いゝではないか。
太宰治情死考 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は出鱈目な言葉を敬々うやうやしく呟き終ると、やにわに彼の心臓へ手を差し入れて魂を掴み出さうとするのである。
霓博士の廃頽 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
と思いつつ敬々うやうやしくかの車を通過すれば、この車に乗りたるオノコらは手に手にメガホンをもち、これなん選挙の自動車にてありけり。二日の後が投票日さ。
一命生きながらへるは厚恩、まことに有難いことでござる、と言つて、敬々うやうやしく御礼に及んだものである。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
農村から敬々うやうやしく献上米が殺到する、これ皆々今日璽光様の身辺に行われていることゝ変りはない。
邪教問答 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ふところから縞の財布をとりだして、敬々うやうやしく頭の上に押しいただき、抽斗ひきだしの中へかくしたのだつた。
私はヤス子の手をとり、バカみたいに敬々うやうやしく、くちづけした。そして、その手を放さずに
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
使者を遥々はるばるつかはして如水を敬々うやうやしく大坂に迎へ、膝もと近く引き寄せて九州の働きを逐一きく、あの時は又この時はと家康のきゝ上手、如水も我を忘れて熱演、はてさて
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
玄斎先生がその端然たる姿で玄関に敬々うやうやしくお客を迎えて静々と畳に額をすりつけてヘイいらッしゃいましとやったら、すごいねえ。番頭と云っちゃア気の毒だが、この番頭の風格。
影のない犯人 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
敬々うやうやしく一礼して、こちらへ坂口アンゴ氏が参りますそうで、とたずねる。
西荻随筆 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
橘諸兄に告げしめて「三宝のやつこと仕へ奉る」と、そして敬々うやうやしく礼拝した。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
神社仏閣を素通りせず必ず何事か祈りながら敬々うやうやしく頭を下げて通過するといふ風で、この人ほど世俗をそつくり肯定した生き方は最も世俗的な文盲人にあつてすら有り得ない場合のやうに思はれる。
牧野さんの死 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼女を敬々うやうやしく連れて戻って、然るべき一宗一派をひらきたまえ
神サマを生んだ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
鮒のやうな目付をして、出馬表を敬々うやうやしく押しいただいてゐる。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
親爺はへえーと敬々うやうやしく引退るといふ上乗の首尾である。
探偵の巻 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)