敝衣へいい)” の例文
枕山が始めて五山をその家に訪うた時、五山は枕山の敝衣へいいをまとっているのを見て、乞食こじきではないかと思い戯にその詩才の如何いかんを試み驚いて席を設けたという。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其處そこ長髮ちやうはつ敝衣へいい怪物くわいぶつとめなば、寸時すんじはやくびすかへされよ。もしさいはひ市民しみんはば、すゝんで低聲ていせいに(おう)は?とけ、かれへんずる顏色がんしよくくちよりさきこたへをなさむ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もしそれ老婦人をしてかくてあることを久しからしめば、ついに必ず狂せむ。不意に音あり、戸は開きぬ。同時に照射入さしいる燈火の影に乱髪、敝衣へいいの醜面漢、棍棒こんぼうを手にして面前にきたれり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前は立襟の制服は学生とのみ、きまりてゐたりし故、敝衣へいいも更にいやしからず、かへつて物に頓着せぬ心掛殊勝に見えしが、今日にては塵にまみれし制服着て電車に乗れば車掌としか見受けられず。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)