摺付すりつ)” の例文
「どうも申訳が御在ございません。どうぞ御勘弁を……。」とばかり前髪から滑り落ちるかんざしもそのままにひたすらひたいを畳へ摺付すりつけていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いっその事二人共に死んで仕舞おうかと云って居る処へ、夫が来たので左右へ離れて、ぴったり畳へかしら摺付すりつけて山平お照も顔をげ得ません。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
重太郎は燐寸まっちっていた。有合ありあう枯枝や落葉を積んで、手早く燐寸の火を摺付すりつけると、溌々ぱちぱち云う音と共に、薄暗うすぐろい煙が渦巻いてあがった。つづいて紅い火焔ほのおがひらひら動いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女はわたくしが上着をきかけるのを見て、後へ廻りえりを折返しながら肩越しに頬を摺付すりつけて、「きっとよ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おもてを土に摺付すりつけられ苦しいから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
慶三は矢庭やにわに掛蒲団を剥ぎのけた後、眼を皿のようにして白い敷布シイツの上から何物かを捜し出そうとするらしくやや暫く瞳子ひとみを据えた後、しきりに鼻を摺付すりつけて物のにおいでもかぐような挙動をした。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)