抱〆だきしめ)” の例文
丑松は仙太を背後うしろから抱〆だきしめて、誰が見ようと笑はうと其様そんなことに頓着なく、自然おのづ外部そとに表れる深い哀憐あはれみ情緒こゝろを寄せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しっかり抱〆だきしめて下すったことの嬉しさは、忘れられないで、よく夢に見い見いしました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
御子様がないのですから、奥様もも懐しそうに抱〆だきしめて、白い頬をその柔い毛に摺付すりつけて、美しい夢でも眼の前を通るような溶々とけどけとした目付をなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何かいおうとして言いかねるように、出そうと思う言葉は一々長い歎息ためいきになって、心にたたまってる思いの数々が胸に波を打たせて、僕をジット抱〆だきしめようとして、モウそれもかなわぬほどに弱ったお手は
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
「房ちゃん」とお雪は子供を抱〆だきしめるようにして、「父さんにきらわれたから、彼方あっちへ行きましょう」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は表へ飛出して、夢中で雪道をすたすたと歩いて、何の買物をしたかも分らない位。風呂敷包を抱〆だきしめて、口惜しいと腹立しいとで震えました。主人をけなすという心は一時にわき上る。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)