把持はじ)” の例文
されば従来の『文芸倶楽部』と『新小説』、依然として一は通俗的に一は専門的なる本来の面目を把持はじして長く雑誌界に覇をとなへ得たり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
人生の全局面をおおう大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠ぼうばくたる輪廓中の一小片を堅固に把持はじして
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが老いて既に耄碌もうろくし、その上酒精アルコール中毒にかかった頭脳は、もはや記憶への把持はじを失い、やつれたルンペンの肩の上で、むなしく漂泊さまようばかりであった。
見る見る葉子の把持はじから離れて、人もあろうに愛子——妹の愛子のほうに移って行こうとしているらしいのを見なければならないのはなんという事だろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
神巫いちこたちは、数々しばしば、顕霊を示し、幽冥ゆうめいを通じて、俗人を驚かし、郷土に一種の権力をさえ把持はじすること、今も昔に、そんなにかわりなく、奥羽地方は、特に多い、と聞く。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはまた吾人ごじんが個々の印象を把持はじする記憶の能力の薄弱なためとも言われよう。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大きな精神を把持はじさせなければ、大きな労力の効果と能率はあがる筈がない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々は、そういう人も何時かはその二重の生活を統一し、徹底しようとする要求に出会うものと信じて、何処どこまでも将来の日本人の生活についての信念を力強く把持はじして行くべきであると思う。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
その個性の発展がまたあなたがたの幸福に非常な関係をおよぼすのだから、どうしても他に影響のない限り、ぼくは左を向く、君は右を向いても差支ないくらいの自由は、自分でも把持はじ
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉子は一人ひとりの男をしっかりと自分の把持はじの中に置いて、それがねこねずみでもぶるように、勝手にぶって楽しむのをやめる事ができなかったと同時に、時々は木村の顔を一目見たばかりで
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)