手抜てぬか)” の例文
ある重大な手抜てぬかりに気づいたのだ。あの様な際に、よくもそこまで考え廻すことが出来たと、彼はあとになって屡々しばしば不思議に思った。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その疑いをまた少しも後へ繰り越させないように、手抜てぬかりなく仕向けて来る相手の態度を眼の前に見た時、お延はむしろ気味が悪くなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伸太郎 成程お前は一家の女主人としては実によく行届ゆきとどく。店の仕事から奉公人の指図、台所から掃除洗濯、近所交際づきあい、何一つとして手抜てぬかりはない。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
何時も料理と同じ様に行届かぬ手抜てぬかりを見付出されては叱られて居られた。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あんな、栓を落すのを忘れて来る程では、外にも何か手抜てぬかりがあったかも知れない。そう思うと、彼はもう気が気ではないのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はもう何の躊躇する所もなく、機械人形の様に無神経に、微塵みじん手抜てぬかりもない正確さで、次々と彼の計画を実行して行きました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
写真をしまった所まで調べ上げてあるのだから、何といってもこっちに手抜てぬかりはない筈だ。宗三、勝利者の気組みで、ぐっと落着いて、お花の様子を眺めている。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「だがね、用心には用心をするがいいぜ。どんなところに手抜てぬかりがあるまいものでもねえ。早い話がこの俺がだよ。鳥打や背広だけお前達の仲間で、中身は存外ぞんがい敵かも知れないからね」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
というのは、そこには、真実の兄のつけた部分のあるページの隅に、一つの指紋がハッキリと現れていたのです。私はとんでもない手抜てぬかりをしていたことに気附いて、思わずギクリとしました。
きまりだあな。そこに手抜てぬかりがあるものか。こっちには桝本ますもとのおやじが抱き込んである。あいつにたんまりくらわせてあるからね。あれの人望でおさえつけりゃ、ナアニ、びくともするこっちゃない。
この場合明智の方に手抜てぬかりがあったとは云えぬ。彼が今上野駅へ到着する事は、波越警部と、福田氏とが知っているばかりだ。この自動車が偽物にせものだなどとは、神様だって想像も出来なかったであろう。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)